もの忘れ、年のせい?―MCI(軽度認知障害)とは
「最近よく忘れる」「人の名前が出てこない」――そんな経験はありませんか?
年齢とともに増える“物忘れ”。しかし、それが単なる加齢によるものなのか、認知症の始まりなのか、不安になる方も多いはずです。
とくに最近、テレビやラジオでMCI(軽度認知障害)という単語を耳にすることが増えてより一層不安になった方もいらっしゃるかもしれません。
MCIはMild Cognitive Impairment=軽度認知障害とよび【認知症】とは異なる概念です。
認知機能が以前よりも低下し、正常ではないものの日常生活機能が保たれており認知症ではないことを指します。
つまり、「まだ認知症ではないけれど、通常より記憶力などが低下している状態」のことで認知症の“一歩手前”かもしれないサインです。
MCIが認知症の一歩手前であるならば、いつかは認知症になってしまうのでしょうか?
じつはMCIのすべてが認知症へ進行するわけではありません。だからこそ、早めの気づきとケアがとても大切です。
MCIの経過:必ずしも認知症に進行するわけではありません
MCIと診断された方が認知症に進行する確率(コンバート率)は、1年で約10%〜15%程度とされています。
一方で、MCIから認知機能が正常な状態へ改善する方は、1年で約20%程度と言われています。それ以外の方々は、MCIの状態に留まることになります。
重要なのは、MCIは適切な対策を行うことで健常な状態に戻る可能性があるということです。だからこそ、早めの気づきとケアがとても大切なのです。
MCIの予防と対応:エビデンスに基づく5つのアプローチ
1. 地中海式食事法(Mediterranean Diet)
2024年のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、地中海式食事法(MedDiet)を実践することで、認知症のリスクが有意に低下することが示されました。この食事法は、果物、野菜、全粒穀物、豆類、健康的な脂肪を豊富に含んでいます。
研究によると、MedDietの遵守度が高い高齢者では、認知症のリスクが最大で33%低下することが報告されています。
この論文については簡単に別のコラムで触れています。
2. フラボノイドの摂取による認知機能の維持
2024年の研究では、フラボノイドを多く含む食品(ベリー類、柑橘類、緑茶、ダークチョコレートなど)を摂取することで、老化に伴う身体的・精神的機能の低下リスクが最大15%減少することが明らかになりました。フラボノイドは抗酸化作用や抗炎症作用を持ち、脳の健康維持に寄与します。
3. 筋力トレーニングによる認知機能の改善
2024年のランダム化比較試験では、週2回の筋力トレーニングを12週間実施することで、軽度認知障害のある高齢者の記憶力や脳の構造が改善されることが示されました。特に、海馬や前頭前野など、アルツハイマー病の影響を受けやすい脳領域での変化が確認されました。
4. GLP-1受容体作動薬による認知症リスクの低減
糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬(例:セマグルチド、リラグルチド)を使用することで、認知症のリスクが最大45%低下する可能性があることが、2025年の研究で報告されました。これらの薬剤は、血糖値のコントロールや炎症の抑制を通じて、脳の健康をサポートすると考えられています。
出典: Neuroprotective effects of GLP-1 receptor agonists in neurodegenerative diseases
5. LDLコレステロールの管理による認知症予防
2025年の研究では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を70mg/dL未満に維持することで、認知症のリスクが26%、アルツハイマー病のリスクが28%低下することが示されました。また、スタチンを使用することで、さらにリスクが13%低下することが報告されています。
出典: Lower LDL of 'Critical Importance' in Reducing Dementia Risk
まとめ
「最近、もの忘れが増えたかも」と感じたら、それはMCIのサインかもしれません。
現時点では、「バランスよく食べて適度に運動して健康的な生活を送ること」が認知症を予防する鍵と言えるでしょう。
ただし、物忘れには様々な原因があり、病気が隠れていることもあります。不安を感じたら、一人で悩まず、ぜひ専門の医療機関にご相談ください。
当クリニックでは、皆さまの健康な毎日をサポートするために、MCIの早期発見や予防に関する相談を承っております。お気軽にご相談ください。