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コラム

手に力が入らない ― 片手に起こる症状とストレスとの関係

はじめに

「最近、片方の手に力が入らない」「コップを持とうとして落としてしまった」「手の握力が弱くなった気がする」
――このような訴えは、脳神経外科の外来でしばしば耳にします。

一時的な疲れやストレスで起こる場合もあれば、重大な病気が隠れていることもあります。

本記事では、「手に力が入らない」という症状の原因と、ストレスとの関わりについて、脳神経外科医の視点から解説します。

 


手に力が入らないとはどういうことか?

「力が入らない」と一口にいっても、いくつかのパターンがあります。

  • 握力が弱くなる:物を落とす、ペットボトルのキャップを開けられない

  • 細かい動作がしにくい:ボタンをかけにくい、箸を持ちにくい

  • 腕全体がだるい・動かしにくい:腕を挙げづらい、すぐ疲れる

これらは一時的に起こる場合もあれば、徐々に悪化する場合もあります。

症状が片手だけに限られるか、全身に広がっているかは非常に重要な情報です
片側に限られる場合は、神経や脳の病気が関わっている可能性があります。


考えられる主な原因

1. 脳の病気

脳は手足の動きを司る中枢です。特に片側だけの症状は脳の異常を強く示唆します。

  • 脳梗塞・脳出血
    脳の血管が詰まったり、破れたりすると、突然手に力が入らなくなることがあります。顔のしびれや呂律の回らなさ、視力の異常を伴うこともあります。発症から時間が勝負なので、このような症状が出たらすぐに受診が必要です。

  • 一過性脳虚血発作(TIA)
    一時的に脳の血流が低下し、数分から数十分だけ片手に力が入らなくなることがあります。
    症状は自然に回復しますが、将来の脳梗塞の警告サインであり、早期の精査・治療が必要です。


2. 脊髄・神経の病気

脳ではなく、首や腕の神経に障害がある場合にも片手の脱力が起こります。

  • 頚椎症・頚椎椎間板ヘルニア
    首の骨や椎間板が神経を圧迫し、手のしびれや脱力を引き起こします。長時間動かない姿勢、下を向いたままのスマホ使用、パソコン作業が原因となることもあります。

  • 末梢神経障害
    手首の神経が圧迫される「手根管症候群」などでは、手のしびれや握力低下が出ます。


3. 筋肉の病気

筋肉そのものが障害を受けている場合もあります。

  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーなど、進行性の神経筋疾患では初期に片手の脱力として現れることがあります。

  • 炎症性疾患(筋炎など)でも、手に力が入りにくくなることがあります。


4. ストレスや心因性の要因

ストレスが強いと、自律神経のバランスが乱れ、体の一部に力が入らない感覚が出ることがあります。

  • 機能性神経症状(心因性運動障害)
    医学的な検査では脳や神経に異常が見つからないにもかかわらず、「手に力が入らない」「思うように動かせない」と感じる状態です。
    背景には強いストレスや心理的な負担が関わっていることが多く、体の働きに影響を及ぼしてしまいます。決して「気のせい」ではなく、心と体のバランスの乱れによって本当に症状が出る病気です。

  • 過換気症候群
    強い不安や緊張など心理的ストレスがきっかけで呼吸が浅く速くなり、血液中の二酸化炭素が減少します。その結果、手足のしびれや脱力感、めまいが出ることがあります。
  • 自律神経機能の乱れ(いわゆる自律神経失調症)
    ストレスや生活リズムの乱れによって自律神経のバランスが崩れると、体温・血流・筋肉の働きなどが不安定になります。これによって「手に力が入りにくい」と感じることがあります。医学的には「自律神経失調症」という明確な病名は存在しませんが、日本では広く使われる言葉のため、ここではわかりやすさのためにあわせて紹介します。

この場合は、休養やストレス対策、カウンセリングが有効ですが、まずは器質的な疾患を否定することが大前提です。


ストレスと神経症状の関係

ストレスは体に様々な影響を及ぼします。脳や神経にも影響し、以下のようなメカニズムで症状が出ます。

  1. 自律神経の乱れ → 血流や筋肉の緊張が不安定に

  2. 睡眠不足や疲労 → 筋肉や神経の働きが低下

  3. 心理的要因 → 症状への意識が強まり悪循環に

その結果、「手に力が入らない」と感じやすくなるのです。

ただし、ストレスが原因と判断するのは最後であり、まずは脳や神経の病気を除外することが大切です。


受診の目安

以下のような場合は、迷わず脳神経外科・神経内科を受診してください。

  • 急に片手に力が入らなくなった

  • 顔のゆがみ、言葉が出にくい、視力異常を伴う

  • 症状が繰り返し出る

  • 首や肩の痛み・しびれを伴う

  • 数週間たっても改善しない

特に突然の症状は脳卒中の可能性があるため、救急車を呼ぶ必要があります。


検査と診断

脳神経外科では、症状に応じて以下の検査を行います。

  • 頭部MRI/CT:脳梗塞や出血の有無を確認

  • 頚椎MRI:神経圧迫や椎間板ヘルニアの有無を確認

  • 血液検査:炎症や代謝性疾患を評価

これらの検査によって、器質的な疾患とストレス性の症状を見分けていきます。


治療法

治療は原因によって異なるため一概には言えませんが簡単に列挙します。

  • 脳梗塞・脳出血:緊急治療(血栓溶解療法や外科治療)

  • 頚椎症・神経圧迫:リハビリ、薬物治療、場合によっては手術

  • 末梢神経障害:装具療法や手術

  • ストレス関連:休養、カウンセリング、薬物療法(必要に応じて)


日常生活でできる対策

  • 十分な睡眠と休養をとる

  • ストレスをためすぎない(運動・趣味・相談)

  • 首や肩の姿勢を整える(長時間のスマホやパソコンを避ける)

  • 高血圧・糖尿病・脂質異常など生活習慣病を管理する


まとめ

「手に力が入らない」という症状は、ストレスによっても起こりますが、特に片手だけに症状が出る場合は脳や神経の病気が隠れていることがあります。

  • 突然の症状 → 脳卒中の可能性があり、救急受診が必要

  • 徐々に悪化 → 頚椎や神経の病気を疑う

  • 検査で異常なし → ストレスや心理的要因の可能性

いずれにしても、自己判断で「ストレスのせいだ」と片づけるのは危険です。気になる症状があれば、早めに脳神経外科を受診してください。


👩‍⚕️ 当院では
当院ではMRI検査や神経学的診察を通じて、片手の力が入らない原因を総合的に評価しています。症状が突然出た場合はもちろん、「なんとなく弱い気がする」といった違和感でもお気軽にご相談ください。

 

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